あなたの子ですが、内緒で育てます
「お体を壊します。厨房に言って、セレーネ様がお好きなものを作らせましょうか」

 ジュストの気遣いは嬉しかった。
 でも、精神的なショックのせいか、体調がよくない。
 それだけではない。
 時おり、幻覚が見えるのだ。
 また、今日も見えた――

『わたくしのお腹の子が王になるのに、王妃にしていただけないなんて、おかしいですわ』
『それはそうだが……。王妃はセレーネだ』

 渋るルドヴィク様に、すがるデルフィーナの姿が目の前に浮かぶ。

『ルドヴィク様が力を失ったのが、なによりの証拠! 次代の王を身籠ったわたくしこそ、王妃の資格がございますわ!』

 ――王は次の王が生まれると、力を失う。

 この幻が真実なら、デルフィーナの子供が王になるのは間違いない。
 つまり、すでに次の王はデルフィーナのお腹の中にいるということ。
 そして、すでに、ルドヴィク様は王の資格を失っている。
 デルフィーナに対して、遠慮がちになるルドヴィク様の姿を目にし、確信した。
 ますます、私の立場はなおさら悪いものになる――と。

 ――絶望しかなかった。

「……夢よ。これは悪い夢なのよ」
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