あなたの子ですが、内緒で育てます
「いいえ。私はロゼッテにも、ルチアノと同様の愛情を注ぐべきだと申し上げております」

 兄上の顔色がさっと変わる。
 さっきまでの調子の良さが嘘のようだ。

「七年前、私は妃で無くなり、冷遇されました。その時の辛さを忘れていません。あの時、私が妃でなくなっても、変わらぬ愛情を持っていてくれたなら、答えは変わっていたでしょう」
「七年前の恨みを忘れろとは言わないが、やり直せるはずだ」

 セレーネは傷ついた顔をしていた。
 兄上にとって、セレーネが七年前に受けた心の傷など、塵にも等しい。
 それに、彼女は気づいたのだろう。
 兄上は何度、セレーネを傷つけるのか。
 
「兄上」
「なんだ。ザカリア。今、セレーネと大事な話をしている」
「復縁しようとしているなら、やめたほうがいい。それは、彼女を傷つけるだけだ」
「ザカリア。お前になにがわかる」

 兄上は俺を睨んだ。
 周囲に守られて生きてきた兄上は、守られなかった者の気持ちなどわからないのだ。

「王妃だったセレーネは、髪を切り、古着を着て、命の危険を感じながら、デルフィーナから必死に逃げた。兄上はその頃、なにをしていた?」
「なにをしていただと……」
「今、兄上がやるべきことは、セレーネとの復縁ではない。ロゼッテ王女をデルフィーナから引き離し、守ることだ」
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