あなたの子ですが、内緒で育てます
 これは、セレーネが、わたくしにルドヴィク様を奪われた時と同じ状況だ。
 あの日、セレーネは無様に泣いたりしなかった。
 同じ立場になり、その理由がようやく理解できた。
 起きていることに対して、感情が追い付かないのだ。

「残念だな。このワインはうまいぞ。俺とセレーネが出会った年のワインだ」

 酔っているのか、ルドヴィク様は機嫌がいい。
 ここまでされても、わたくしは自分が捨てられていないと信じたかった。
 
「もしかして、これは……セレーネの復讐……?」

 わたくしのつぶやきを聞いたルドヴィク様が、鼻先で笑い飛ばした。

「セレーネが相当の頑固者で困っている。王妃にしてやると、俺が言っても、うんと言わないのだ」

 捨てられる者の気持ちが、ルドヴィク様には理解できないようだ。

 ――もう、セレーネはルドヴィク様を愛していない。

 わたくしにでさえ、わかる。
 それなのに、ルドヴィク様は復縁できると信じているのだ。

「ザカリアが邪魔だ」

 ルドヴィク様は、ワインを飲み干し、からになったワイングラスを傾けた。
 そして、わたくしに言った。
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