あなたの子ですが、内緒で育てます
 悔しいことに、セレーネは美貌を保ったままだ。
 
「セレーネと比べ続けられて、どれだけ、わたくしが傷ついたか!」

 セレーネは令嬢たちと違う。
 一度もわたくしに頭を下げなかった。
 そして、わたくしを『殺したい』『憎い』という感情は感じなかった。
 ルドヴィク様を奪われ、悲しんでいるだけ。
 それが一番面白くない。

「セレーネが、わたくしに嫉妬するところを見たかったのに!」

 泣きもせず、堂々と振る舞い、わたくしに命乞いひとつしなかった。
 生意気な顔を思い出す。

「ルドヴィク様の態度も気に入らないわ」

 もっと、わたくしのために必死になってほしい――

『いいぞ』
『わかった』
『お前の好きなようにしろ』

 ――と、ルドヴィク様は適当に返事をする。
 なんでも、『わかった』と言ってくれるけど……
 わたくしが、逃げたセレーネに追っ手を向けてと、お願いしても『わかった』と絶対に言わなかった。

 ――セレーネへの関心を完全に失っていない。

 ルドヴィク様は王妃の地位を剥奪したことに、後ろめたさを抱いているのだろう。
 セレーネの王妃としての手腕は確かだった。
 慈善事業、地方への視察、政治への助言など、多くの仕事をこなしていた。
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