あなたの子ですが、内緒で育てます
「だから、セレーネ。お前は……。おい、どうした?」

 急に、馬車が止まった。 
 窓を開けて、ザカリア様が御者に問う。

「兵士たちが門を閉じ、王都から出る者を調べているようです」
「なるほど。セレーネがいなくなったことに気づいたようだな」

 早い――デルフィーナは本気で私を憎んでいる。
 そして、顔に傷をつけるだけで満足せず、いずれ命まで奪おうとするだろう。

「俺が疑われるのはわかっていたが、思っていたより行動が早いな」
「ジュストの情報によると、追っ手は出ていないと言っていたのですがね」
「ジュストは無事なのか」
「もちろんです。奴は素早い。先に王都を出ましたよ」

 二人の会話で、ジュストが無事、王都を出たことがわかり、ホッとした。

「王都で、数日、身を潜めてから出るしかないか……。お前は俺の替え玉を馬車に乗せ、王都を出て領地へ入れ。向こうの気を引いて、動きやすくする」
「ザカリア様が領地へ帰ったとわかれば、そちらに目がいきますからね」
「そうだ」

 引きこもりと噂されていたザカリア様だけど、そんなふうには見えない。
 馬車を人目につきにくい道の脇にとめると、私と一緒に馬車から降りる。

「こっちだ」
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