あなたの子ですが、内緒で育てます
「いずれ、消える力だ。頼りすぎるのは良くない。明日の天気が知りたければ、農夫に聞け」
「明日じゃない日の天気を知りたい時はどうしたらいいの?」
「書庫に過去の天候記録が残っている。文字を早く覚えて読めばいい」

 ルチアノは尊敬のまなざしをザカリア様に向ける。
 子供相手にも、ザカリア様は真剣に答えてくれる。
 ルチアノの中でザカリア様への信頼は、日々大きくなっていた。
 
 ――もしかしたら、母親の私よりも……

 ちょっと寂しい気持ちになりながら、ルチアノの成長を眺めた。

「セレーネ。ルチアノを兄上の領地近くまで連れていく」
「よろしいのですか?」
「今、兄上の領地がどんな状況なのか、自分の目で見たほうが勉強になる。心配しなくとも、向こうはルチアノの存在に気づいていない」

 ルチアノどころか、私の行方さえ、ルドヴィク様は把握していないだろう。
 実家の侯爵家も。
 どこかで、のたれ死んだか、身を隠して一人寂しく暮らしている――そんなふうに思われているに違いない。
 そう思ったら、ザカリア様に保護を求めて正解だったと思う。
 ルチアノは父親がいなくても、ここで、のびのび暮らせているのだから。

「ザカリア様や城の皆さんがいてくださってよかったです」
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