あなたの子ですが、内緒で育てます
「お互い様だ。城の奴らもセレーネやルチアノが来てから、むさ苦しさが減って、華やかになってよかったと言っている」

 ザカリア様の城はルドヴィク様と違い、要塞のような造りになっていた。
 そして、城の中は飾り気がなく、庭には花ひとつ植えられていなかった。
 晩餐会も舞踏会もなく、楽隊の楽の音もない城だった。

「セレーネが庭に花を植え、城を飾り、領地の奥方たちに文字や刺繍を教えたからか、以前より豊かに感じる」

 秋の心地よい風が吹く。
 遠くまで見渡せる城のバルコニーから見えるのは、城の眼下に広がる賑やかな町並み。

「セレーネが建てた学校も、順調に広がりつつある」
「建てたのはザカリア様ですわ」
「言われなかったら、気づかなかった」

 今まで、少なかった学校も増えた。
 数が増えたため、子供たちは近隣の学校へ通えるようになった。
 今年からは冬の間も学校を開けて、農夫の子供たちにも文字を教える予定だ。

「子供たちが成長したら、領地をもっと豊かにしてくれますね」
「ああ」

 ザカリア様の領地はこの先、さらに発展するだろう。
 ルチアノが馬の乗り方をジュストに教わっているのが見えた。
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