あなたの子ですが、内緒で育てます
 きっと自分一人で馬に乗りたいと言い出して、ジュストを困らせているのだろう。
 ジュストはいけませんよ、と言いながらも、ポニーを連れてきて練習させていた。

「ルチアノは、もう一人前だな」
 
 ルチアノを見て、ザカリア様が笑った。
 あまり笑わなかったザカリア様だけど、自然と笑みをこぼすようになった。

「そうですね。最近では、大人顔負けの発言が多くて、私も負けてしまいます」

 ルチアノは、私とザカリア様に気づいて、城の下から手を振る。
 普通なら、気づかない距離だ。

「ザカリア様が、ルチアノの良い師になっていただけて助かります。私では、力の扱い方を説明できませんから」
「俺も説明できている自信はない。俺の力は一生で一度しか使えないものだ。あまり参考にはならない。だが、力を使わないという選択肢を教えることはできる」

 どんな力であるか、ザカリア様は教えてくれない。
 それは、ザカリア様のお母様の事件に関係しているような気がして、深く聞かないようにしていた。
 
「それより、セレーネ。また食事を作ったのか」
「お菓子ですわ。午後から、畑で働く人たちに、お茶とお菓子の差し入れをしようと思ってますの。忙しくて、台所仕事まで手が回らないと、困っていらしたから」
「ほどほどにしておけ。いずれ、王宮へ戻る身だ。いなくなった時、寂しく思うだろう」

 私とザカリア様は同時に王都の方角を眺めた。
 
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