あなたの子ですが、内緒で育てます
 使者が顔を上げ、セレーネとルチアノを見つめる。

「ザカリア様……。その銀髪の子供は……もしや……」

 セレーネが答える前に、ルチアノが答えた。

「ぼくはルチアノです。父は国王陛下で、母はセレーネです」

 ルチアノは、俺や領地の人々がが危険だと、本能的に察して、機転をきかせたようだった。
 セレーネも隠すのはもう無駄だと、判断したのか、ベールを外す。

「やはり、セレーネ様……。ご無事で……」

 使者の目に涙が浮かぶ。

「謀反の罪になることを知りながら、大臣たちもザカリア様に頼るしかなかったのでしょう。誰しも都合のいい話だと、わかっていますわ。けれど、それしか方法がなかったのです」
「……わかっている」
「ザカリア様。私はルチアノを連れ、王宮へ戻ります」
「危険だ」
「いずれ、戻るつもりでした」

 王妃でなくなっても、セレーネは王妃にふさわしい責任感の強さと、誇り高さを、いまだ失っていない。

「大臣たちの使者ですが、ルチアノを迎えに来たことにすれば、謀反の罪にはなりません。誰も死なずに済みますわ」

 セレーネは、いつでも王宮へ戻る覚悟をしていた。
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