あなたの子ですが、内緒で育てます
 俺に後見人を頼んだあの日から、戻るつもりでいるのはわかっていた。

 ――母とは違う。そして、自分は彼女を死なせたくない。

 王の寵愛を失った母は、孤独と絶望の中、死を選んだ。
 母も戦うことを選んでくれたらよかったのだ。
 自分を捨てた王など、心の中から捨てて、俺と生きる道を考えてほしかった。

「わかった。俺もセレーネたちと一緒に王宮へ行く。後見人だからな」
「ザカリア様、ありがとうございます。心強いですわ」

 セレーネは微笑んだ。
 そんなセレーネに、使者は深く頭を下げた。
 
「セレーネ様。七年前は、お助けできず申し訳ありませんでした」
「いいえ。私にもっと権力があれば、ルドヴィク様やデルフィーナを止められたはずです。王の愛情と信頼を得られなかった私にも落ち度があります」
「そんなことはっ……! セレーネ様がいらしたからこそ、国王陛下は王として振る舞えたのです」

 使者は泣き出した。
 ルチアノがハンカチを差し出す。

「泣かないで。ぼく、ずっと王都も王宮も見てたよ。大変だったこと知ってるよ」
「なんと……?」
「ルチアノは遠くのものが見えるのです」

 能力を持っているのは、王の子の証だ。
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