私達には婚約者がいる【菱水シリーズ④】
もしかすると、私のことを知っているのかもしれない。
私が彼女を知る以前より。

「笙司さんと結婚するつもりですか?」

「え?」

「なにを言っているんだ!?」

鋭い口調と目をした笙司さんに彼女はわずかに怯んだだけで前に出た。

「私から見て、あなたが笙司さんを愛しているとは思えないんです」

「おかしなことを言うな。キッチンに戻れ!」

他にもお客様がいるというのに笙司さんは大声で彼女を怒鳴り付けた。
店内がいくら騒がしいといつても、怒鳴り声は目立つ。

「余裕ないなぁ」

くすりと知久が笑うと余計に笙司さんは顔を赤くした。
そして、知久をにらんだ。

「君のように恵まれた環境で育った人間に俺のような成り上がりの気持ちがわかるか。こっちは必死なんだよ」

「つまり、渋木のお金目当てってことを言いたいのかな。それとも、渋木の娘と結婚したと自慢するため?」

笙司さんにとって、私との婚約は投資と同じ。
うまく父に取り入り、伯母を利用し、婚約させた。
知久が私をかばったと思ったのか、毬衣さんが横から口を挟んだ。

「笙司さんの考えのなにが悪いのかわからないわ。利用できるものを利用しただけでしょ? そして婚約できたのよ。私と同じよね」

「そうだな」

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