私達には婚約者がいる【菱水シリーズ④】
「じゃあ、帰るよ。また」

知久はシフォンケーキが入ったケーキの箱を抱えて店から出て行った。
穂風は私の隣に立って、顔を覗き込んだ。

「小百里。よかったね」

「本当ね。唯冬の恋もうまくいきそうだし、安心したわ」

「違うよ。私が言っているのは小百里のこと」

「え?」

「私は気づいてたよ。小百里が知久君のことを好きだってね」

「穂風」

「でも、知らないふりをしてあげる。けど、もし辛いことがあるなら言って。私達に秘密はなしだよ。肝心な時に小百里を助けてあげられなくなるから」

「いつも穂風は私を助けてくれているわ」

「小百里もね。シフォンケーキ食べよう。生クリームたっぷりでね」

「太るわ」

「少し太った方がいいよ」

穂風はそう言って、たっぷりの生クリームをのせたクルミと紅茶のシフォンケーキを出してくれた。
店内は静かで、風に揺れる木々の葉擦れの音だけが聞こえてきた。
父に出した条件の三年の最後の一年が終わった時、私は誰と結婚しているのだろう。
約束の一年を切り、私は不安だった。
やがてやってくるその日を考えずにはいられなかった。
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