私達には婚約者がいる【菱水シリーズ④】
陣川の家―――か。

『それができぬならお前は私の子ではない!』
『永遠に勘当し 永遠に見捨て 永遠に粉砕する 血肉を分けたすべての絆を』

夜の女王が歌っていたが、俺との会話に集中するためか、兄は画面を停止させた。
静寂の中、俺と兄は対峙した。
陣川の家で一番厄介なのは父じゃない。
兄だ。

「婚約者が確かにいるね。けど、その決定は正しかったのかな。兄さんは陣川のプラスにならない結婚だと、疑わなかった?」

「つまり、お前は高窪に対して、なにかやらかそうとしている。そういうわけか」

「兄さんは察しがよくて助かるよ。説明する手間がはぶけた」

「なにが『助かるよ』だ! お前がおとなしく高窪(たかくぼ)の娘との婚約を承諾したのもおかしいと思っていたところだ! なにを企んでいる」

「五年間」

「五年?」

「兄さんが俺を自由に利用できる期間をあげるよ」

「利用か」

兄は苦笑した。
悪い話ではないと思ったらしい。
話に乗って来るのはわかっていた。

「俺の人気を利用できるのは兄さんにとって有益だろ? これから上を目指す兄さんが取り入りたい相手は山ほどいるはずだ」

俺は自分自身と自由になる時間を差し出した。
正直、自由になれる時間を捨てるのはきつい。
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