私達には婚約者がいる【菱水シリーズ④】
どうやら、最初から私に話す気はなかったようで、今もなにかを考えている。
それが無駄な足掻きだと教える必要があるわね。

「言わないなら、二度と知久のお願いはきかないわよ」

「二度と!? つまり、もうお風呂はダメってことか……まさか、温泉も!? いや、それはきついだろ」

真剣に悩まないで欲しいんだけど……
うーんと知久は唸ってから、諦めたのかようやく口を開いた。

「えーと、それはあれだよ。俺と小百里が結ばれるのは運命だったってことなんだ」

「なにが運命よ。こんな都合よく知久も私も婚約がなくなるなんていくらなんでも都合よすぎるでしょ!」

「あっ、そうだ。小百里。俺のバイオリンを聴きたくない? 特別に愛を語るように弾く……」

王子様のように私の手の甲にキスをし、そして上目遣いで私を誘惑する。
残念だけど、私にそれは通用しない。

「愛を語る前に真実を語りなさい」

厳しい声に知久は諦めたように前髪をかきあげた。

「あー、降参! 降参だよ。もう小百里は怒ると怖いからなー。そうだよ、俺がいろいろやりました。でも詳しいことは内緒!」

「どうして教えてくれないの?」

「小百里は知らなくていい。地獄に落ちるのは俺一人で十分だから」

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