私達には婚約者がいる【菱水シリーズ④】
「十分よ。高窪は会社まで奪われて毬衣さんは知久のことが好きだったのに婚約を解消されたのよ?」

「なに? 俺のこと可哀想な毬衣さんに譲るつもり?」

「譲られたいの?」

知久の目はさっきまでの温度のない冷たい目ではなくなっていた。

「小百里は意地悪だ」

「知久にはこれくらいがちょうどいいわよ」

くすりと笑って、その頬を指でなでた。
私があなたを譲るわけない。
わかっているくせに。

「俺がいない間に小百里は強くなったね」

「知久が私をそうさせたのよ。忘れたの?」

私の言葉に思い出したのか、知久は指を掴んでキスをした。
懐かしそうに目を細めて私を見る。

『笑うといいよ。君は綺麗だから笑えば誰も傷つけることはできない』

そう言ったのは知久で、私は渋木の家や親戚達の中でうまく立ち回ることを覚えた。
私達は嘘つきで―――そして、本心はお互いだけが知る。
離れていても遠くにいても私があなたの一番の共犯者だった。
微笑み合って私達はキスをした。
同じ香水の香りがずっと私達を繋いでいた。
どこにいてもお互いがそばにいると感じるように。
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