私達には婚約者がいる【菱水シリーズ④】
イタリアンレストランや輸入食品を取り扱うお店を経営しているだけあって、笙司さんの考え方はお金にシビアで音楽など道楽にすぎないと思っているタイプだった。
そう考えているのは笙司さんだけではない。
渋木の父も同じ。

「まだ失敗してないわ。卒業して三年間は経営の勉強をすると言ったら、父も笙司さんも反対しなかったのに今になって反対するの?」

「それはそうだが」

「コートを取りに行きたいのだけど」

それとなく、手を離すように促した。
けれど、笙司さんは離してはくれず、力任せに通路の壁に私の体を押し当てた。
思い通りにならない私への怒りが伝わって来たけれど、私はそれを甘んじて受ける。
私が笙司さんなら、きっと知久のことを疎ましく思い、嫉妬していただろうから。
顎をつかみ、私の顔を上に向かせると、笙司さんはハッキリとした口調で私に言い聞かせた。

「君は俺の婚約者だ。手に入れるため、君の伯母にずいぶん金を使った」

伯母とは父の姉であり、知久の婚約者である毬衣(まりえ)さんの母親のことだった。
父と私が、伯母から聞いた話と違っていた。
伯母が習っている琴の先生の息子さんで、信頼できる方だからと言われただけ。
父はお金が絡んでいるなんて、きっと知らない。

「候補者は山ほどいた」

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