私達には婚約者がいる【菱水シリーズ④】
いつの間に―――違うわね、知久は最初からそうするつもりだった。
レストランでバイオリンを弾いている時から?
それとも、この仕事を引き受けたときから?
私と会うための時間を作るために彼はうまく罠を仕掛ける。
バイオリンの腕だけじゃない。
悪魔みたいに頭がいい。
誰も敵わない。
私の髪や額にキスをして知久は笑う。

「ずっと触れていたいのに我慢してる俺の身にもなってよ?」

知久はホテルの部屋のキーを見せて微笑んだ。
私の心も体も彼の手の内。
一度だって知久は私を手放そうとはしなかった。
出会った時から、私の心は彼のもの。
彼の音に魂を奪われた。
この悪魔は私を全部奪わないと気が済まない―――きっと、地獄行き。
あなたも、わたしも。
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