私達には婚約者がいる【菱水シリーズ④】
抱き締めた腕は私を逃がすつもりはなく、手で押しても動かなかった。
痛くも苦しくもないのに逃げられず、冷たい窓ガラスに指を置いた。
暗い窓には雨の水滴を残し、水の中から夜景を眺めているようなぼやけた世界が眼前に広がっている。
「知久。疲れたでしょう? 休んだら?」
冷えたガラスが指先から伝わって、私を冷静にさせた。
「やっぱり、おあずけか」
いじけたように知久は腕をほどいた。
目に見えてがっかりしていたけど、知久だってわかってる。
「私達には……」
「婚約者がいるって?」
「そうよ」
「おかしいな。俺の記憶では留学する前に小百里と俺は気持ちが通じあったつもりだったんだけど」
「四年は長いわ」
「小百里は四年の間に俺から逃げるのが、うまくなったね」
「大人になったのよ」
「大人になったら、諦めなきゃいけないって? それは違うんじゃないかな。大人になったから手に入るものもある」
知久は私の腕を掴んで自分に引き寄せると、ソファーに座らせた。
花の蜜のような甘い香りが知久のシャツから漂っていた―――けれど、これは。
「俺と同じ香水だね?」
ガブリエルシャネルの香り。
フローラル系の香りなのに甘い香りも似合ってしまう知久。
痛くも苦しくもないのに逃げられず、冷たい窓ガラスに指を置いた。
暗い窓には雨の水滴を残し、水の中から夜景を眺めているようなぼやけた世界が眼前に広がっている。
「知久。疲れたでしょう? 休んだら?」
冷えたガラスが指先から伝わって、私を冷静にさせた。
「やっぱり、おあずけか」
いじけたように知久は腕をほどいた。
目に見えてがっかりしていたけど、知久だってわかってる。
「私達には……」
「婚約者がいるって?」
「そうよ」
「おかしいな。俺の記憶では留学する前に小百里と俺は気持ちが通じあったつもりだったんだけど」
「四年は長いわ」
「小百里は四年の間に俺から逃げるのが、うまくなったね」
「大人になったのよ」
「大人になったら、諦めなきゃいけないって? それは違うんじゃないかな。大人になったから手に入るものもある」
知久は私の腕を掴んで自分に引き寄せると、ソファーに座らせた。
花の蜜のような甘い香りが知久のシャツから漂っていた―――けれど、これは。
「俺と同じ香水だね?」
ガブリエルシャネルの香り。
フローラル系の香りなのに甘い香りも似合ってしまう知久。