私達には婚約者がいる【菱水シリーズ④】
「小百里を怒らせてでも、俺から逃げられないように動けなくなるまで抱けばよかった」

本当に悪魔かもしれないと思いながら苦笑した。
抱かずに体に痕だけを残した知久。
その痕を満足げに眺めて指に触れさせた。
指の感触がいつまでも残りそうで、その手を掴んで止めると悪い顔をして笑う。
どこまでも私を堕とさないと気が済まないらしい。

「そんなことされたら、私はもう二度と知久と会わなかったでしょうね」

「そうだろうね。だから、我慢したよ。あー、俺ってもしかして聖人君子かも」

「なにが聖人君子よ。図々しいにもほどがあるわ」

体にいくつも痕をつけておいてと、赤い痕を苦々しい気持ちで見ていると首に無機質な感触がした。
その指に触れた金属に目をやるといつ私の首につけたのか、雨の雫のようなネックレスがつけられていた。
プラチナとダイヤモンドのシンプルで上品なティアドロップのデザイン。

「気づいた? それ、ずっとつけていてよ」

ネックレスの意味は束縛。
私を縛り、絡めとり、逃がさない。

「知ってる? 小百里。ティアドロップのモチーフは悲しい涙が喜びの涙に変わる。そんな意味を持っているらしいよ」

知久が私の髪を手ではらい、チェーンを指に絡ませた。

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