私達には婚約者がいる【菱水シリーズ④】
「それに姉さんの夢のひとつだっただろう? 音楽家が集まるような店にしたいって、言っていたのを俺は覚えている」

「そうだけど……」

「協力したつもりなんだけどな」

協力ねぇ……
スタインウェイのグランドピアノを店に置いたことが協力?
店内で圧倒的な存在感を放つピアノだったけど、これをこのまま、飾りにするわけにはいかない。
弾き手が必要になる。
私を言い訳にして、買ったんだろうけど、自分の片想いしている相手へのプレゼントじゃないの。
プレゼントなら、まだ可愛い。
これは彼女をおびき寄せるための罠なのだから。

「ピアノが弾けなくなって、傷ついている千愛(ちさ)さんにひどいことしないでね。彼女はうちのカフェの大事なお客様なのよ。わかってるわよね?」

「失礼だな。姉さん」

唯冬は虫も殺さぬ顔をして言ったけど信用ならない。
カフェ『音の葉』―――私と穂風(ほのか)が大学生の頃から計画して開いたカフェだった。
静かで穏やかな時間を好む人が集まるような憩いの場所。
カフェはビルの一階で、それ以外は美容室や会社に貸し出し、上階部分はマンションになっていた。
最上階には私の部屋がある。
私のテリトリーで好きにさせてなるものですか!
じろりと唯冬を睨みつけた。

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