私達には婚約者がいる【菱水シリーズ④】
そんな弟達には私だって、幸せになって欲しいと思っている。

「だから、彼女が来る曜日と時間を教えてくれよ。あと、ここの店員として、俺を彼女に会わせてほしい」

これには私も返事のしようがなかった。
だって、唯冬には婚約者がいる。
私の婚約者が決まる前に決まった唯冬の婚約。
私と唯冬の婚約のどちらが重要かと言えば、長男の唯冬の結婚のほうが大事だった。

「唯冬。あなたには婚約者がいるでしょう? 知久さんの妹さんの結朱(ゆじゅ)さんが……」

だから、私と知久の婚約は絶対にない。
そして、陣川家は私が父の子かどうか、疑っていたこともあって、知久との婚約は考えていなかった。
渋木の跡継ぎだろうと目されていた唯冬が、陣川家の大切なお嬢様と婚約するのは当然のことだった。

「俺は断った。それを親が勝手に婚約者として扱っているだけの話だ」

「唯冬!」

「俺は自分の意志を曲げない。姉さんも生きたいように生きていい。母さんに気を遣う必要はないよ」

もしかして、唯冬は私と知久の関係を知っているのだろうか。
唯冬は多くを語らず、椅子から立ち上がった。

「それじゃ、仕事があるから」

唯冬が店から出ていくと穂風が私のそばにいて、優しく言ってくれた。

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