私達には婚約者がいる【菱水シリーズ④】
「強がりはやめたら? 親から勘当されてるんでしょ? そこまでして、こんな小さい店で働いて満足?」
「毬衣にはわからないだろうけど、私は満足しているよ。今のところ、親の力を頼らずに順調にやれてる。毬衣は無職なんだっけ?」
毬衣が言葉に詰まり、穂風はくすりと笑った。
「私は小百里に感謝しているよ。家から追い出された私に小百里が部屋を貸してくれたことも、カフェのキッチンを任せてもらえることも」
「親友の夢を応援したいと思うのは当然だわ」
私は穂風に夢を叶えて欲しかったのだと思う。
不自由な私の代わりに。
私と穂風は微笑み合った。
「それで、毬衣さん。なにか用かしら?」
「小百里が最近、冷たいって笙司さんが言っていたから、なにをしているのか様子を見にきたのよ」
「仕事をしていたわ」
「仕事ね。仕事より、婚約者の心を繋ぎとめておいたらどう?」
そう言いながら、毬衣さんはバッグの中から写真を数枚、取り出した。
それは笙司さんと女性の写真で、相手の女性は笙司さんがずっと付き合っている女性だった。
その女性とホテルに入っていく写真を並べる。
「いくら美人でも婚約者から相手にされないんじゃね」
毬衣さんは嘲笑を浮かべて、私に勝ち誇った顔をしていた。
私が写真を見て、傷つけばいいと思っている。
私以外の女性と笙司さんが仲良くしているのを見せつけて。
清加さんのように―――私を苦しめ、追い詰めたいと、毬衣さんも、その母親の章江さんも思っていた。
私が渋木の家に引き取られてからずっと。