私達には婚約者がいる【菱水シリーズ④】

16 恋【知久】

『恋は扱いづらい鳥 誰も手なづけられない』

流れているのは歌劇のカルメン。
婚約者のいるホセが、カルメンに誘惑されてしまったあげく、最後はカルメンを殺してしまうという話。
バッドエンドなのに俺にぴったりと言われる。
みんなは俺をカルメンとして見ているのか、ホセとして見ているのか、どっちなんだろう。
カルメンを弾くことが多いけど、特別得意だというわけではなかった。
けれど、自分に合っているといえば合っているし、みんなが喜ぶから弾いていた。
今日もきっと弾いてくれと言われる。

「ここにいたの、知久さん」

俺が高校生になると、親はおかしな女に陣川製薬の次男坊が捕まってはいけないと思ったらしく、俺に婚約者という枷をつけた。
それが高窪(たかくぼ)毬衣(まりえ)だった。
彼女は俺のひとつ上で、渋木(しぶき)の親戚できつめの美人だ。
俺の隣にいても、まあ、見劣りはしないんじゃないかな?
けど、性格はお世辞にもいいとは言えない。

「知久さん、探したのよ」

赤いマニキュアが塗られた指を蛇の舌のように伸ばす。
ピアノを弾いているらしいけど、爪は長く、練習しているのかどうか。
俺が菱水音大附属高校に入学すると聞いた彼女は、同じ高校に通いたくて先に入学したと聞いた。
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