第3皇子は妃よりも騎士団長の妹の私を溺愛している
その瞳には、揺れる涙が浮かんでいた。

「俺は……」

アシュレイの声が震える。

「ずっと、“王子”という立場でしか人と関われなかった。誰も本当の俺を見ていない。自分を小さな存在だと思い込んでいた。けれど……彼女に出会って、初めて“自分でいていい”と感じたんです」

玉座の間に、しんとした沈黙が落ちた。

誰も、すぐには言葉を返せなかった。

王はその真っ直ぐな想いを汲んでくれた。

「理解した。ノルヴァン家と調整をつけよう。」

「父上……」

アシュレイが一礼をした。

そして私の方へと歩いてくる。

まずい、離れなければ。

私は使用人達の合間をすり抜けるようにして出口へ向かおうとした。

だが――

「リリアーナ。」

名前を呼ばれた。その一言に、足が止まる。

無視など、できなかった。

そっと振り返ると、そこには微笑むアシュレイの姿があった。

柔らかく、けれど決して誰にも渡さないというような、強い意思を秘めた眼差し。

私は、ただその場に立ち尽くすしかなかった。
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