野いちご源氏物語 三〇 藤袴(ふじばかま)
<このままここにいてはいけない>
とお部屋の奥の方へ入っていかれる玉葛(たまかずら)姫君(ひめぎみ)を、若君(わかぎみ)はお(うら)みになる。
「お逃げになるとは心外(しんがい)です。無理(むり)()いをするような人間でないことは、もうお分かりでしょうに」
<この機会にもう少し話を聞いていただきたい>
とお思いになるけれど、
「体調が悪くなりましたので」
と言って姫君は奥へ入ってしまわれた。

半端(はんぱ)に打ち明けるだけになってしまった>
若君は(くや)しく思って、台風の日に垣間(かいま)()(むらさき)(うえ)をふと思い出された。
<こんなふうなついたて越しでもよいから、お声を聞ける日は来るだろうか>
つらく思いながら春の御殿(ごてん)に戻って、源氏(げんじ)(きみ)に姫君のお返事をお伝えになる。
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