野いちご源氏物語 三〇 藤袴(ふじばかま)
姫君は弟君と直接お話しすることにまだ気が引けていらっしゃる。
宰相の君という女房を取次ぎ役にしてお返事なさろうとすると、弟君は心外そうにおっしゃる。
「父君がわざわざ私を使者になさったのは、人づてではなく直接姉君にお伝えなさりたいことがあったからです。そのようにされてはお伝えできません。たいした身分でもない私ですが、姉弟という切れない縁を頼もしく思っておりますのに、姉君がそのように他人行儀になさってはつろうございます」
「私もこれまでの積もる話を申し上げたいと思っているのですが、近ごろどうにも気分が悪くて起き上がることもできないのです。それをそこまで厳しくお責めになりますことこそ、他人行儀に思われますが」
真面目な口調で宰相の君から伝えさせなさる。
「ついたて越しに直接お話しすることもお許しいただけないわけですか。いや、こんな失礼なことを申し上げてはいけませんね」
ご長男は諦めて父君からのご伝言を小声でお伝えになる。
ご態度などがすばらしい若者でいらっしゃるの。
「『内裏に上がられる詳細を私は伺っておりませんが、必要な物などがございましたら内々にご連絡ください。直接会ってお話しできればよいのですが、人目を気にしてそれはできませんから気にかかっております』と仰せです。
それにしても、もう色めいたことを申し上げてよい関係ではなくなってしまったのですね。これからは姉弟でございますが、あのころも今も私を遠ざけようとなさいますから恨めしく思います。今夜だってそうですよ。お客ではなく家族扱いをしていただいて、女房たちの控室あたりまで入らせていただきたいものです。実の弟がこのようなお扱いを受けるのはおかしなことです。まぁ、それを言ったら私たちのこれまではおかしなことばかりですけれど」
恨み言をおっしゃるお姿も美しいので、宰相の君は無視することもできず姫君にお伝えする。
「突然姉らしく振舞うのも周りの目が気になりまして、あなた様と打ち解けてお話ができないことは私もつらく思っております」
きちんとした態度を崩さないままおっしゃるお声がほのかに聞こえて、ご長男は気まずくなってしまわれた。
「姉弟とも知らず恋文を送っていたことが恥ずかしゅうございます。しかもお返事もいただけませんでしたね」
姫君をお責めになるのは筋違いだけれど、最後に恨み言を残していかれる。
「姉弟であることはご存じだろうと思っておりましたから、これはどういうことかと腑に落ちず、お返事を書けなかったのでございます」
姫君のお言葉をお伝えしたあとで、宰相の君がとりなすように申し上げる。
「弟君としてのお手紙なのか、求婚者としての恋文なのか、姫君は本当に悩んでおられました。『どちらですか』とあなた様にお尋ねするわけにはまいりませんし、勝手にどちらだと決めてお返事を差し上げるわけにもいかなかったのです。でもこれからはご姉弟として文通なさるはずです。今は人目を気にしすぎていらっしゃいますが、いずれは直接お話しもなさいましょう」
ご長男は何度かうなずいて、お帰りになろうとなさる。
「長居しては失礼ですから。これ以上の恨み言を申し上げるのは、私の誠意をお見せしてからにいたしましょう」
月が高く上って、趣のある夜よ。
ご長男のお姿は上品で美しい。
「若君には多少お負けになるけれど、内大臣様のご長男もすばらしい方でいらっしゃる。迷ってしまうわ」
若い女房たちはきゃあきゃあと騒いでいる。
宰相の君という女房を取次ぎ役にしてお返事なさろうとすると、弟君は心外そうにおっしゃる。
「父君がわざわざ私を使者になさったのは、人づてではなく直接姉君にお伝えなさりたいことがあったからです。そのようにされてはお伝えできません。たいした身分でもない私ですが、姉弟という切れない縁を頼もしく思っておりますのに、姉君がそのように他人行儀になさってはつろうございます」
「私もこれまでの積もる話を申し上げたいと思っているのですが、近ごろどうにも気分が悪くて起き上がることもできないのです。それをそこまで厳しくお責めになりますことこそ、他人行儀に思われますが」
真面目な口調で宰相の君から伝えさせなさる。
「ついたて越しに直接お話しすることもお許しいただけないわけですか。いや、こんな失礼なことを申し上げてはいけませんね」
ご長男は諦めて父君からのご伝言を小声でお伝えになる。
ご態度などがすばらしい若者でいらっしゃるの。
「『内裏に上がられる詳細を私は伺っておりませんが、必要な物などがございましたら内々にご連絡ください。直接会ってお話しできればよいのですが、人目を気にしてそれはできませんから気にかかっております』と仰せです。
それにしても、もう色めいたことを申し上げてよい関係ではなくなってしまったのですね。これからは姉弟でございますが、あのころも今も私を遠ざけようとなさいますから恨めしく思います。今夜だってそうですよ。お客ではなく家族扱いをしていただいて、女房たちの控室あたりまで入らせていただきたいものです。実の弟がこのようなお扱いを受けるのはおかしなことです。まぁ、それを言ったら私たちのこれまではおかしなことばかりですけれど」
恨み言をおっしゃるお姿も美しいので、宰相の君は無視することもできず姫君にお伝えする。
「突然姉らしく振舞うのも周りの目が気になりまして、あなた様と打ち解けてお話ができないことは私もつらく思っております」
きちんとした態度を崩さないままおっしゃるお声がほのかに聞こえて、ご長男は気まずくなってしまわれた。
「姉弟とも知らず恋文を送っていたことが恥ずかしゅうございます。しかもお返事もいただけませんでしたね」
姫君をお責めになるのは筋違いだけれど、最後に恨み言を残していかれる。
「姉弟であることはご存じだろうと思っておりましたから、これはどういうことかと腑に落ちず、お返事を書けなかったのでございます」
姫君のお言葉をお伝えしたあとで、宰相の君がとりなすように申し上げる。
「弟君としてのお手紙なのか、求婚者としての恋文なのか、姫君は本当に悩んでおられました。『どちらですか』とあなた様にお尋ねするわけにはまいりませんし、勝手にどちらだと決めてお返事を差し上げるわけにもいかなかったのです。でもこれからはご姉弟として文通なさるはずです。今は人目を気にしすぎていらっしゃいますが、いずれは直接お話しもなさいましょう」
ご長男は何度かうなずいて、お帰りになろうとなさる。
「長居しては失礼ですから。これ以上の恨み言を申し上げるのは、私の誠意をお見せしてからにいたしましょう」
月が高く上って、趣のある夜よ。
ご長男のお姿は上品で美しい。
「若君には多少お負けになるけれど、内大臣様のご長男もすばらしい方でいらっしゃる。迷ってしまうわ」
若い女房たちはきゃあきゃあと騒いでいる。