野いちご源氏物語 三〇 藤袴(ふじばかま)
九月になった。
初霜(はつしも)が降りて優雅な朝、女房(にょうぼう)たちはこっそりと姫君(ひめぎみ)()ての恋文を持ってくる。
それぞれ求婚者たちから頼まれたのね。
ご自分ではご覧にならず、女房に読ませて姫君はお聞きになる。

右大将(うだいしょう)様からのお手紙には、
「来月には内裏(だいり)に上がられると(うかが)いました。空が移り変わって一日一日が過ぎていくたびに悩みが深くなります。今月は結婚に向かない月ですから、ふつうの男は嫌う月ですが、今の私は今月に人生を()けている。情けないほどあなたに恋をしているのです」
とある。

兵部卿(ひょうぶきょう)(みや)様からは、(しも)をのせた(ささ)と一緒にお手紙が届いた。
尚侍(ないしのかみ)におなりになるそうですね。決まってしまったことはもう仕方ありません。笹に降りたはかない霜は、日の光ですぐに溶けて消えてしまいます。それと同じように、(みかど)の恐れ多い光を浴びたら、あなたのご記憶から私などは消えてしまうでしょうか。どうかお忘れにならないで。あなたのご記憶のなかにいられれば、私の心は(なぐさ)められますから」

求婚者たちからの手紙は、紙の色も(すみ)濃淡(のうたん)()きしめた香りも、それぞれに思いが込められていてすばらしいの。
「内裏にお上がりになったらもうこういうお手紙は届かないのですね。つまらなくなりますね」
女房たちは残念がっている。
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