この結婚はビジネスのはずでしたが、御曹司が本気で愛してきます
「母の病気が治って、また一緒に暮らせるなら……五百万なんて、安いかな。」

そう口にしたけれど、それは明らかに強がりだった。

本当は、安いなんて思えない。

重すぎて、抱えきれない。

でも、そう言わなきゃ、崩れてしまいそうで。

「……そう思えるなら、君はまだ大丈夫だ。」

奏がそう言って、優しく笑った。

私は黙って、また一口ハンバーグを口に運んだ。

大丈夫。

大丈夫じゃないけど――

この人と話していると、少しだけ前に進めそうな気がした。

お店を出たとき、奏はポケットから名刺を取り出した。

「朝比奈 奏(あさひな かなで)?」

私は名刺を手に取りながら、その名前を口に出した。

「うん、俺の名前。君は?」

一瞬、名乗るべきか迷ったけど、何か嘘をつく理由もない。

「……水原 結衣です。」
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