この結婚はビジネスのはずでしたが、御曹司が本気で愛してきます
「結衣か。」

彼はふっと口元を緩めたあと、胸ポケットからメモ用紙を取り出し、さらさらと何かを書き出した。

「明日、ここに来て欲しい。」

渡された紙には、地図が描かれていた。

大通り沿いのビルに丸がついていて、会社名らしきものが添えられていた。

「俺の会社だよ。怪しいところじゃないから。」

そう言って、彼は軽く笑った。

でも――どうして?

今日会ったばかりの私に、どうしてそこまでしてくれるの?

そう聞こうとした瞬間、彼は先に口を開いた。

「話がある。」

その目は、冗談じゃなかった。

真剣で、どこか決意を秘めた眼差し。

言葉が出なかった。

でも、なぜか断れなかった。

ポケットの中で、くしゃくしゃになった病院の領収書と、渡された紙切れが触れ合う。

私はただ、小さく頷いた。
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