この結婚はビジネスのはずでしたが、御曹司が本気で愛してきます
私は、心の中で小さく溜息をついた。

「……分かりました。」

もう、断ろう。

それだけ――そう思っていた。

こんな人生、誰かの“妻”になっている余裕なんてない。

ましてや、契約で。

「申し訳ないですけど……」

そう言いかけたその瞬間――

奏が、私の手をそっと握った。

驚いて顔を上げると、彼の真っ直ぐな瞳が私を見つめていた。

「……考えてくれ。君に賭けたいんだ。」

その言葉が、まるで胸の奥をノックされたように響いた。

軽い冗談でも、ビジネスでもない。

彼の瞳には、まぎれもない“本気”が宿っていた。

どうして私なのか。

どうしてこんな風に、真剣な目で見るのか。

答えはわからない。

でも――この人を、ただの冷たい御曹司だとは思えなかった。
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