全部、俺のものになるまで
課長の言葉に、男の手がわずかに緩む。

「……そっか。ごめんね、瑠奈ちゃん。」

男はそう言って、ようやく私の腕を放した。

でも、その視線はまだおかしかった。

私は思わず後ずさる。

「なに? 怖いの? 俺が?」

狂気すらにじむ声。

鳥肌が止まらない。

逃げ出したいのに、足が動かない。

──その瞬間だった。

「……もう十分だ」

相馬課長が素早く間に入り、男の腕をぐっと掴んだ。

「なっ……!」

「あとは俺が対応する。社の警備にも、警察にも連絡する」

強い口調に、男は抵抗しようとしたが──

課長は一切の隙を与えず、静かに男を連れて廊下の奥へと消えていった。

ただ見送るしかなかった私は、その場にしゃがみ込んだ。

息が止まっていたことに、ようやく気づいた。

助かったんだ。

……課長に、助けてもらった。
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