全部、俺のものになるまで
シャワーを浴びながら、私は考えていた。

──今夜、課長に抱かれるかもしれない。

湯気に包まれた浴室の中、心臓の音が少しずつ早くなる。

「……でも。」

私は自分の体を、ぎゅっと両腕で抱きしめた。

それでもいい。

そう思ってしまっている自分が、確かにいた。

恋人のふりをしているだけ。

でも、その関係に、私の気持ちだけが追いついてしまっていた。

シャワーを終えて浴室を出ると、課長は「次、使う」と言ってすれ違い、バスルームへと向かった。

私はそっと彼の寝室へ入る。
目に入ったのは、シンプルで広々としたベッド。

静かにベッドに腰を下ろし、そのまま横になってみる。

「……課長の匂いがする。」

ふわっと鼻先をくすぐる、洗剤と微かな香水の匂い。

体の奥がじんわりと熱を帯びてくる。

そんな時だった。

「お姫様は大胆だな。」

突然、頭の上から聞こえた低い声。

驚いて見上げると──そこには、濡れた髪のまま、バスタオルを腰に巻いた相馬課長がいた。

水滴の伝う首筋。

視線はまっすぐに、私を見下ろしている。

何も言えなくて、ただ見返した。

──その目が、私を“女”として見ていることに、気づいてしまった。
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