全部、俺のものになるまで
翌朝、課長はすっかり“いつもの課長”に戻っていた。

「この書類、冊子にするからそのつもりで。」

「はい。」

落ち着いた声で指示を出すその姿は、まるで昨夜の甘さなんてなかったかのようで。

課長の指示に合わせて、各部署が慌ただしく動いていく。

「月島は、これで冊子見本、作っておいて。」

ふと顔を上げると、目の前に置かれたのは、分厚い書類の束。

「……ええっと、一応聞きますけど、何部ですか?」

「10部。」

「ひえー……」

小さくぼやいたけれど、手はもう動かしていた。

──これ、全部私がやるんですね?

課長、昨夜はあんなに優しかったのに。

……って、なに考えてるの私。

ふと視線を上げると、課長はこちらを見ているでもなく、いつも通りの表情でデスクに向かっていた。

特別な言葉も、視線も、何もない。

──でも、それが彼なんだと思った。

特別扱いしない。

仕事は仕事、私もただの部下。

けれどその“変わらない態度”が、逆にちょっとだけ安心だった。

恋人のふり。

それでも、心のどこかで――本当の恋人みたいになれたらって、思ってしまった。
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