全部、俺のものになるまで
翌朝、私は相馬課長のもとへ足を運んだ。

周囲には同僚がいて、いつものオフィスの喧騒がある。

でも、自分の中だけは、ずっと静まり返っていた。

「……課長、少しよろしいでしょうか?」

彼が顔を上げ、私を見る。

その視線から目を逸らさずに、私は言った。

「“契約”……解除していただけますか?」

相馬課長の眉がわずかに動いた。

「……もう、ストーカーも来ませんし。」

そう言って、私は精一杯、笑って見せた。

「ありがとうございました。助けていただいて、本当に……感謝してます。」

課長の反応はなかった。

ただ、じっと私の顔を見つめていた。

その沈黙が、痛かった。

何かを期待している自分がいて、それを自分で否定した。

だから私は、ひとつだけ深く頭を下げて、その場を離れた。

……これでよかったんだ。

“ふり”は、終わらせなきゃいけなかった。

ほんとうの恋人じゃないなら、いつかきっと、もっと深く傷つく日が来てしまうから。
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