全部、俺のものになるまで
「先生、俺のこと、覚えていますか?」

突然声をかけられ、振り向いた瞬間、息が止まった。

スーツ姿の青年がそこに立っていた。

きれいに整えられた黒髪、大人びた目元――でもその声は、忘れもしない。

「……覚えているわよ。成瀬陽翔君、でしょ?」

そう。私がかつて塾講師をしていた頃の教え子。

いつも真っ直ぐに私を見つめていた、あの少年が――今、目の前に大人になって立っているなんて。

「大人になったわね。」

そう声をかけると、陽翔君はにっこり笑った。

あの頃と同じ、少し照れたような笑顔。

胸が少しだけ、くすぐったくなる。

「先生、お昼、食べました?」

「まだよ。」

「この上にレストランあるんで、食べに行きませんか?」

自然な流れだった。

昔の教え子と偶然会って、軽く食事くらい――そう思ったのに、どうしてだろう。胸がこんなに高鳴っている。

「いいわね。」
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