全部、俺のものになるまで
「それとも──もう、会わない?」

スーツの上着を羽織った彼の姿が、急に遠くに感じた。

まるで、昨夜の熱が嘘だったかのように。

そんな選択肢を、彼の中に持たれていたことが、少しだけ怖かった。

「これ、俺の名刺。」

そう言って、財布から一枚のカードを差し出された。

「気が向いたら、連絡して。」

差し出された名刺を受け取りながら、私はうなずいた。

笑うことも、責めることもできずに。

陽翔は、それ以上何も言わず、ドアに手をかけた。

そして静かに部屋を出ていった。

どうして、「会いたい」と言えなかったのだろう。

私のほうが年上なのに。

きっと言えば、陽翔は「うん」って笑ってくれたはずなのに。

胸が締めつけられて、涙がこぼれそうだった。
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