全部、俺のものになるまで
それからというもの、和臣さんは私の涙にすぐ気づくようになった。

ふいに肩を震わせれば、何も言わずに背中を撫でて、そっと抱きしめてくれる。

その胸に顔を埋めるたび、トクン、トクンと穏やかな心音が響いてきて、自然と涙は止まっていた。

「落ち着く……」

そんな呟きが口からこぼれる。

それに、和臣さんの匂い。

洗剤とスーツの香り、少しだけ煙草の名残。

私がずっと欲しかった、大人の男の匂い。

あの日まで、母のものだったこの匂いが、今は――私だけのものみたいで。

「心音、大丈夫?」

覗き込むように、優しく見つめる和臣さんの顔。

その唇が近づくたびに、私は理性が揺らいだ。

抱きしめられるだけじゃ、もう足りない。

触れて、感じて、繋がりたかった。

どうしようもなく、キスがしたかった。

この人を、女として好きだと思ってしまった。

それは、もう家族なんかじゃない気持ちだった。
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