全部、俺のものになるまで
その日はよく眠れなかった。

和臣さんの「俺、父親じゃない」という言葉が、頭の中をぐるぐると巡って、目を閉じても眠りが遠かった。

朝――ようやくまどろんだところで目覚ましが鳴った。

「やば……寝坊した……!」

慌てて飛び起きると、キッチンから音と匂いが漂ってくる。

「早くしないと大学、遅れるぞ。」

ワイシャツ姿の和臣さんが、フライパンを手に振っていた。

きちんとアイロンがかかっていて、第一ボタンだけ外された襟元から、鎖骨が少し覗いている。

その姿に――私は、男の人なんだと改めて意識してしまった。

「はい、心音が好きな卵焼き。」

お皿に並べられた、ふっくらとした卵焼き。

一口食べると、ふと懐かしい味がした。

「……なんで、お母さんの味、知ってるの?」

思わず聞くと、和臣さんは少し困ったように笑った。

「それは……ねえ。」

視線を逸らしながら、曖昧に笑うその顔に、また胸がざわついた。

何かを隠しているようなその笑みが、気になって仕方なかった。
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