かりそめ婚は突然に 〜摩天楼Love Story〜


わたしの英語はまだまだ危なっかしい。
カフェで抹茶ラテを注文して、チャイラテが出てくるなんてことは珍しくない。

それでも———以前よりわたしはこの街が怖くなくなった。

「サホ、身体が伸びるようになったわね。リラックスしてる」
ある日、ピラティスのレッスンの後だ。わたしの首まわりをマッサージしてくれたトモミ先生がつぶやいた。

「そうですか?」

「ええ、こちらに来たばかりの頃はもう、筋肉がガチガチだった。どれだけほぐしてもなかなか凝りが取れなくて」

「うはぁー」と間抜けな声を出してしまった。体は正直だ。緊張していたんだなと思う。

その後はいつものようにお茶を飲みながら、最近ようやく家に人を招けるようになったと話をした。
先週もフランス系カナダ人の年配のご夫婦をディナーでもてなしたばかりだ。

エスプリのきいた会話…ができるわけはないので、わたしが頭を絞ったのはもっぱら料理のことだ。
透さんにも相談し、思案の末、出すのは西洋料理にした。
うちは寿司屋でも料亭でもない。素人の和食より、舌になじんだ味のほうが喜ばれるのではないかと思ったのだ。
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