推しに告白(嘘)されまして。
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沢村くんによって連れて来られた場所は、誰もいないとある空き教室だった。
この時間帯は人気もなく、告白をするにはうってつけの場所だろう。
だが、しかし私はきちんと感じていた。
この空き教室の外にある複数の人の気配を。
まあ、どうせ〝鉄子に玉砕大作戦!〟の結果を見届けに来たバスケ部の部員なのだろうけど。
「あ、あの鉄崎さん…」
教室の窓から射す太陽の光を浴びて輝く私の私の推しが未だに言いにくそうに私から視線を逸らしている。
推しが告白する時はこうやって少し恥じらいながらするのだと知れた私はもう嬉しくて嬉しくて仕方なかった。
きっと普通に生きていたら推しの生告白シーンなんて拝めない。
「…す、好きです」
消え入りそうな声で少しだけ頬を赤くしながら言われた言葉。
こんなにも尊い4文字がこの世にあったなんて。
例え嘘だったとしても素晴らしいものがある。
「つ、付き合ってください」
ずっと目を逸らしていた沢村くんが最後に意を決したようにそう言って私の目をまっすぐと見つめてきた。
嘘でもそこにちゃんと誠実さがある沢村くんに胸がジーンッと熱くなる。
推しが眩しくて、大好きすぎる。
「うん。ぜひ」
「…え」
予定通り沢村くんの告白を受け入れた私を沢村くんがぽかーんとした顔で見る。
そんな力の抜けた顔も様になるから罪深いイケメンだ。
「えぇ!?いいの!?」
少し間を開けて私の告白に驚く沢村くんに私は満足げに笑った。
それからこの空き教室の外も、隠れる気は微塵もないのか、と言いたくなるくらい騒がしくなり始めたが、全く気にならなかった。
鉄崎柚子、17歳。
初めての彼氏が推しというとんでもない幸せを掴んでしまいました。