推しに告白(嘘)されまして。



呼ぶ、呼ぶぞ。
私は推しの名前を呼ぶぞ。

何とか沢村くんの名前を呼ぼうと、口をパクパクさせる。
なかなかその決意は声にならず、もどかしかったが、ついにその時はきた。



「…ゆ、ゆう、ゆ、悠里くん」

「っ!」



やっと私から発せられた推しの神々しい名前。
私の言葉に沢村くん…いや、悠里くんは、その表情を一気に明るくさせた。



「…ありがとう、柚子」



嬉しそうに目を細め、私の名前を呼ぶ悠里くんに胸が暖かくなる。

大変だったけど、呼べれてよかった。
やはり、推しは笑っていなければならない。
推しの幸せが私の幸せなのだから。



「柚子、あと、もう一つお願いなんだけど…」



嬉しそうに笑っていた悠里くんが再び言いづらそうに口を開く。
今度は一体どんなお願いなのだろう、と先ほどとは違い、少し身構えていると、悠里くんから案外簡単なお願いが出てきた。



「…柚子のスマホのホーム画面、今、華守との写真だよね?それを華守との以外に変えて欲しいんだ」



そこまで言って、悠里くんは「勝手に覗いてごめん」と
本当に申し訳なさそうに謝罪した。
だが、私は勝手に覗かれたとは全く思っていなかった。
人のスマホのホーム画面など、一緒にいれば、どこかのタイミングで目に入る時もあるだろう。
そんなことよりも、悠里くんからのお願いが先ほどとは違い、とても簡単なもので私は安堵した。
これならいくらでも叶えられる。



「ホーム画面ね。あれ、勝手に千晴が変えてきて、変えても変えてもあれにするから面倒くさくてそのままにしてたんだよね」



そう言いながらも私は服からスマホを取り出す。
そしてそのままの流れでスマホの画面を開き、さっさとホーム画面設定を触り出した。



「ホーム画面、さわ…悠里くんの写真にしてもいい?」



たまたま目に入ったデートの時の悠里くんの写真を選び、悠里くんに見せる。
すると、悠里くんはそれを見て、表情を綻ばせた。



「うん、ありがとう、柚子」



眩しすぎる悠里くんの笑顔に危うく天に召されそうになったのは言うまでもない。



< 113 / 437 >

この作品をシェア

pagetop