推しに告白(嘘)されまして。
7.恋の嵐が吹き荒れる。
1.お嬢様、襲来
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あの素晴らしすぎる練習試合から数日後。
平日の夜のこと。
自分の部屋でくつろぎながらも、私はスマホの画面を見ていた。
タップしてもタップしても出てくるのは、悠里くんとのデートの時に、死ぬほど撮った推し、悠里くんの写真だ。
整った顔立ちも、爽やかな笑顔も、黒いサラサラな髪から覗く、優しげな瞳も。全部全部、尊く、眩しい。
推しの神々しさについついだらしない表情を浮かべていると、スマホの画面に悠里くんではない人物が現れた。
異様に整っている顔立ちの美人、千晴だ。
スマホの画面に映っている千晴は、キラキラと輝く夜のメルヘンランドを背景に、私と共に笑っていた。
私とお揃いのバケハとサングラスを身につけて。
「ふふ」
その写真を見て思わず頬が緩む。
それからあの特別で楽しかった1日に、私は思いを馳せた。
どのアトラクションも待ち時間0分で体験でき、疲れれば、VIP専用の特別なラウンジで休める。
アトラクションはどれも楽しく、日常を忘れさせ、ラウンジの食べ物や飲み物は、全てチケットに含まれている為、食べ飲み放題で、どれも最高に美味しかった。
きっとあの特別な体験は、今後一切できないものだろう。
そこに千晴がいて、私はとても楽しいと思えた。
特別を1人ではなく、2人で味わうことによって、さらに最高の1日を過ごすことができた。
素行も悪いし、学校のルールもろくに守らないし、マイペースでめちゃくちゃなやつだけど、いいところもちゃんとあるやつなんだよね。千晴は。
メルヘンランドでも、私が行きたい、と言えば、どんなアトラクションにも付き合ってくれたし、苦手らしいお化け屋敷では、私を守るように歩いてくれていた。
実はまっすぐ曲げずに思ったことを、相手に伝えれる素直さもあるし、本気でスポーツに打ち込む熱意や強さもある。
決して悪いだけのやつではないのだ、千晴は。
学校の生徒たちも、もっと私のように、千晴のいいところを知れば、あんなふうに怖がることもないだろう…と言いたい。
だが、実際は、千晴には申し訳ないが、胸を張って、そうだとは言い切れないのが、現状だった。
結局は千晴のあの態度、素行の悪さが、今の千晴の現状を招いている。
少なくとも学校生活の中では、100%千晴が悪い。
千晴の評判が悪いのも、怖がられているのも、全部千晴のせいなのだ。周りの誰も悪くない。
千晴のことをたまたま深く考えていると、ピンポーンと家のチャイムが鳴った。
ご近所の佐藤さんでも来たのだろうか。
そんなことを思いながらも、その場で、扉の方へと聞き耳を立てると、その声は聞こえてきた。
「あらあらぁ〜。ご丁寧にどうもぉ」
お母さんの声は高く、よく響く。
どこか嬉しそうだが、丁寧なお母さんの声に、私はすぐに相手は佐藤さんではないな、と察した。
仲の良い、ご近所さんを相手にするには、何だか他人行儀な雰囲気を感じたからだ。