推しに告白(嘘)されまして。




現状に頭が追いつかず、どうすればいいのかよくわからなくなり、固まってしまう。
しかしそんな私なんてお構いなしに、相変わらず強引でマイペースなお母さんは「それじゃあ、ごゆっくり〜」と、いつの間にか千夏ちゃんを私の部屋へと案内していた。

そして気が付けば、私の小さな部屋の丸テーブルを挟んで、私は千夏ちゃんと向き合っていた。
私の部屋には入り切らなかったゴリマッチョスーツたちが、扉の外でこちらに鋭い視線を向けている。
異様な空気に包まれる私の部屋の丸テーブルの上には、マイペースなお母さんが当然のように用意した暖かいお茶まであった。

マイペースだが、行動力のあるお母さんに、ただただすごいなぁ、と感心してしまう。

…いや、違う違う。
そこではなくて。



「本当にこんなところに人が住んでいるのね…」



状況をまだあまり理解していない私の目の前で、突然千夏ちゃんが興味深そうにそう呟く。
まるで異世界にでも迷い込んでしまったかのような千夏ちゃんの様子に、私はつい聞いてしまった。



「…こんなところって?」

「こんなところはこんなところよ。こんな小さな家に人が住めるわけないと思っていたの。ここはまるでうちの愛犬、ラブちゃんのお家だわ」

「…はぁ」



戸惑いながらも喋り出した千夏ちゃんにやはり理解が追いつかず、間の抜けた返事をしてしまう。

我が家は全く小さくないし、一般的な家の大きさだ。
お父さん、お母さん、私、3人で住むには十分すぎる大きさだし、何不自由なく生活してきたつもりだ。
それをわんちゃんの家と同じだと言うとは、一体どのような価値観、感覚の持ち主なのか。



「でもこのサイズが本当は一般的なのよね。一応、一般常識として教えられてはいたけれど、実際に見て、足を踏み入れると、圧巻ね。驚いたわ」

「…さいですか」



私の適当な返事を全く気にも留めずに、私の部屋を隅から隅まで観察する千夏ちゃんに、私は若干表情を引きつらせた。
千夏ちゃんは間違いなく、思考が一般人のそれとは違うようだ。

そこまで考えて、ふと、千夏ちゃんの兄である千晴のことをまた思い出した。

千晴は華守学園出身で、どうやらスーパー金持ちらしい。
つまり妹である千夏ちゃんも当然、スーパー金持ちであり、こういう感じになってしまっているのだろうか。




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