推しに告白(嘘)されまして。




「アナタはお兄様の彼女よね?」



改めて千夏ちゃんが神妙な顔で私にそう問いかける。
なので、私は「違うよ」ともう一度、淡々と訂正した。



「そ、そんなわけないじゃない…。おかしなことを言わないで。だって、お兄様は絶対アナタに特別な感情を抱いているはずですもの。今まで誰に対しても興味さえも示さなかったあのお兄様がよ?
普段なら絶対に使わない電車を、アナタの為だけに、お兄様は使ったわ。バスケだって、プロ級に上手いのに、さして興味がないからと中学であっさり辞めていたのに、アナタの為にやっていたし。さらにはアナタを追いかけて、ただの高校に編入までして…」

「待って待って待って」



突然、真剣な顔でとんでもない勘違いを口にし始めた千夏ちゃんを、私は慌てて止める。

千夏ちゃんの口から出てくるもの全てが間違っている。
千夏ちゃんいわく、千晴の言動全てに〝私の為〟があるようだが、そんなわけないだろう。



「千夏ちゃん、一から十までぜーんぶ違うよ。そもそもまず千晴は私を追いかけてうちの高校に編入したんじゃないと思うよ。私が千晴と知り合ったのは、千晴が高校に入学してからだし。少なくとも私が理由で編入したんじゃないと思うよ?」



じゃあ、何故、華守学園からうちに来たのか詳しいことはもちろん知らないが。
宥めるようにゆっくりと話す私に、千夏ちゃんの鋭い視線が刺さった。



「そんなはずないわ。絶対お兄様はアナタを追いかけて、鷹野高校に編入したのよ。それ以外、あの高校を選ぶ理由がないもの」



自分こそが正しいと訴えるその態度に、どんなに違うと訂正したくても、限界があるのだと悟る。

こういうタイプには一体どうすれば真実を伝えられるのだろうか。

うんうんと頭を捻っていると、千夏ちゃんはビシッと人差し指を勢いよく私に指してきた。



「とにかく!アナタがお兄様にとって特別であることは明白だわ!あんなにも楽しそうなお兄様なんて見たことないもの!」




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