推しに告白(嘘)されまして。




「千晴の今の行動が千晴のクラスの頑張りを無駄にするんだよ?」

「…別に文化祭とかどうでもいいし。減点してよ、先輩」



本当に興味なさそうにしている千晴に、このままではあまりにも千晴のクラスの生徒が不憫すぎる、と思う。
なので、私はうちの高校にとって、文化祭とはどういうものなのか一から説明することにした。

最優秀賞のクラスには学食無料の特典があること。
その最優秀賞になる為に、たくさんの生徒が努力し、完成度の高いものが完成すること。
その中で時にぶつかり合い、時に励まし合い、絆が芽生えること。

私が去年見てきた文化祭を、全て熱を持って、千晴に話し続けた。
千晴は私がずっと喋っていても、一切視線を逸らさず、むしろどこか楽しそうに話を聞き続けてくれた。
しかし、そんな千晴から出てきた言葉は、何とも悲しいものだった。



「学食無料とか全然いらない」



ある意味千晴らしい一言にガクッと膝から崩れ落ちそうになる。
あの千晴に私の言葉も、一般的な友情、努力、勝利も響かないことは何となくわかっていた。
最優秀賞の特典が〝学食無料〟では、スーパーお金持ちの千晴には響かないだろうとも思っていた。

…では、一体どうすればいいのか。



「…青春は一度きりだよ。今しかないんだよ。それを千晴の無関心で台無しにするのはよくないよ…。それに千晴も一緒にやれば案外楽しいかもだし…」



もうどう訴えればいいのかわからず、つい弱い声音でそう言い、遠慮がちに千晴を見る。
すると、千晴はここにきて初めて、少しだけ黙り、考える素振りを見せた。

まさか、少しは響いてくれた?

千晴の次の言葉をほんの少しだけ期待を込めて待っていると、千晴はその美しい口をゆっくりと開いた。



「俺がやる気になる特典があるなら頑張る」



こちらをまっすぐと見据える美しい瞳には、間違いなく、戸惑う私が映し出されていて。

そこにいる私は首を傾げた。
千晴がやる気になる特典とは一体?と。

スーパーお金持ちが欲しいと思うものとは、一体何なのだろうか。
だいたいのものが手に入るのに、一体何が欲しいのだろうか。

うんうんと頭を捻り続けていると、一瞬、空気が変わった気がした。

千晴の柔らかな金髪が、風に煽られて、ゆらゆらと揺れる。
そこから覗く瞳を細めて、千晴はまっすぐと私を射抜いた。



「俺のクラスが最優秀賞になったら、俺のお願い何でも聞いてよ、先輩」



そんなこと?

千晴のやる気になる特典が、何とも簡単なもので、思わず拍子抜けしてしまう。



「もちろん。その代わり、ずっと見てるからね?ちゃんと頑張らないと、お願い聞かないから」

「うん。先輩、その言葉忘れないでね?」



快く頷く私に千晴はどこか怪しく、けれど、嬉しそうに笑った。

こんなものでやる気になるとはおかしなやつだ。



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