推しに告白(嘘)されまして。
とても見たいと思うが、今はその時ではない、と私はわかっていた。
この騒ぎだ。
きっと悠里くんのクラスは、悠里くん見たさに、たくさんの生徒が集まり、とんでもない騒ぎになっていることだろう。
そこに私が加わるということは、騒ぎを大きくする1人になるということで。
ただ迷惑をかけるだけだ。
そんなこと絶対にできない。
「…」
…けど、すごくすごく見たい。
何とか今、自分を支配する邪念を払う為に、手に持っている布を睨みつけながら、鬼の形相でハサミを動かし続ける。
そんな私を見て雪乃は「見たいんでしょ〜?王子の吸血鬼姿ぁ」と、おかしそうに揶揄ってきた。
「…今はいい」
ギリっと歯を食いしばり、何とかその言葉を絞り出す。
「ふぅん」
楽しそうな雪乃に私は「…さっさと手を動かしなさい」と素っ気なく吐いた。
少し人が少なくなった教室で、また黙々と作業を再開する。
「文化祭まであとちょっとだけど、何とか形になりそうだねぇ。文化祭、どんな男が来るか楽しみ」
「…雪乃らしい、楽しみだね」
意味深な笑みを浮かべる雪乃に、呆れたように笑う私。
いつもの雰囲気の中、他愛のない話をしていると、廊下が何故か先ほどよりも騒がしくなり始めた。