推しに告白(嘘)されまして。
「…や、やば」
「な、何で…」
「かっこいいよぉ」
主に女子生徒たちの黄色い声が先ほどからずっと聞こえてくる。
何事かと思っていると、うちのクラスの扉がガラッと開かれた。
「柚子、いる?」
扉から現れた人物が私の名前を呼ぶ。
サラサラの黒い髪。
そこから覗く、整った爽やかな顔。
優しげな瞳に形の良い口。
そして、キラリと光る鋭い牙。
制服に黒いコート姿の吸血鬼な推し、悠里くんがそこにはいた。
「「きゃあああ!!!!」」
突然の眩しすぎる存在の登場に、教室中の女子生徒たちが悲鳴をあげる。
その中には、数名の男子生徒までいた。
吸血鬼であるというだけで、とんでもないのに、そんな推しが私のことを〝鉄崎さん〟ではなく、〝柚子〟と呼んでくれるなんて。
心拍数が一気に上昇し、頭に血がのぼり、クラクラする。
今にもぶっ倒れてしまいそうだ。
そんな自分を鼓舞して、私は表向きは冷静なままで、悠里くんの元へと向かった。
「…ど、どうしたの?ゆ、悠里くん?」
緊張して、うまく言葉を発することができない。
頬にも熱を感じ、熱くて熱くて仕方がない。
まるで悠里くんという太陽に焦がされている気分だ。
熱中症だ、これ。
「急に教室に押しかけてごめんね。実は作業が長引きそうで、帰るのが遅くなりそうでさ。何時までなら一緒に帰れるか相談しに来たんだ」
申し訳なさそうに笑う悠里くんからチラチラと見える牙が、新鮮でどこか色っぽくて、思わず視線が奪われてしまう。
話の内容があまりにも入ってこない。
「柚子に相談の連絡も入れたんだけど、返事が来ないから、聞きに来た方が早いかなって…。柚子?」
様子のおかしい私に、悠里くんが首を傾げる。
それと同時に私の視界は、一気に暗くなった。
推しのあまりの尊さに正気を失い、私は何と失神してしまったのである。