推しに告白(嘘)されまして。




「大丈夫じゃないから倒れたんでしょ?だから降ろさない」



悠里くんは少しだけ困ったように笑い、小さい子どもに言い聞かせるように優しくそう言った。

…と、とんでもない破壊力だ。

私を抱き抱える悠里くんに、抱き抱えられている私。
廊下を移動する私たちに、生徒たちの好奇の視線が注がれる。
その視線がますます今の状況を私に伝えているようで、恥ずかしさはピークに達した。

けれど、私はこのラブ狙撃手には逆らえない。

私はなすすべなく、ただただ推しの尊さ、眩しさ、メロさ、全てに耐えるしかなかった。



*****



私の推測通り、悠里くんに連れて来られたのは、保健室だった。
そして私は今、悠里くんの手によって、保健室のベッドに寝かせられていた。

…全くその必要のない健康体なのに。



「今日はもうここで休んで落ち着いたら帰ろっか」

「…」



ベッド横にわざわざ椅子を持ってきて座る悠里くんが、まるで病人を労わるような目で、私を見る。
それを私は一瞬だけ、つい黙って受け入れてしまった。

…いや、いやいや。
違う、違う!



「…本当にここまでしてもらって、大変申し訳ないんだけど、私は至って健康でして…」



流石にこの状況はやりすぎで、よくないと思い、私はそそくさとベッドから出ようとする。
しかし、それを悠里くんは、静かに制した。



「…柚子、文化祭準備期間に入ってからずっと働きっぱなしじゃん。休める時は休もう?ね?」

「…は、はぅ」



私を起き上がらせまいと、優しく私のお腹辺りに手を添え、こちらを伺うように見る悠里くんに、思わず声が上擦る。
意識しているのか、いないのかわからないが、ほんの少し上目遣いで、私を捉えている悠里の瞳に、心臓が壊れそうなほど高鳴った。

優しくて、かっこよくて、尊い。
私の推しは最高だ。
こんな完璧な人、世界中どこを探しても、きっといないだろう。



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