推しに告白(嘘)されまして。




「…千晴のクラスって確か舞台で、白雪王子だったよね?」

「うん、そう。俺が王子サマ」



私の質問にふわりと笑って答えた千晴に、だからか、と今の千晴の姿に私は納得する。

千晴たち一年の進学科は、舞台をやるのだが、その内容が白雪姫ではなく、男女の配役を逆転させた、白雪王子というオリジナルのものだった。
この話が出た時、それはもう学校中の話題をこの白雪王子が掻っ攫った。
何故なら、その主人公である王子役を、あの千晴がするからだ。

黙っていれば、作り物のように隙のない美しさを誇る千晴。
そんな千晴の王子姿となれば、学校中の隠れファンが放っておくわけがなく、かなりの騒ぎになっていた。

千晴が今、黒髪で私の前に現れたのも、そういった理由からなのだろう。



「王子様は千晴なのは知ってるけど、お姫様は結局誰になったの?」



どこか楽しそうにしている千晴に、この学校中の全ての生徒が気になっていることをぶつけてみる。

千晴が主人公の白雪王子をやるのなら、相手役は誰なのか。
学校中の生徒たちは皆、その相手役に注目していた。
だが、未だにその情報はどこにも流れていない。



「んー。なんか相手役誰がやるかすっごい揉めてて、結局男女関係なくあみだしたら、バスケ部のやつが姫役になってた」

「…あ、なるほど」



あまりにも興味なさげにあっさりと答えた千晴に、私は苦笑いを浮かべてしまう。
うちの学校にはバスケ部は男子バスケ部しかない。
つまり、千晴の相手役に大抜擢されたのは、バスケ部の男子なのだ。

千晴は軽く相手役である姫決定の経緯を説明していたが、きっととんでもない騒ぎだったのだろうと、千晴の簡潔な説明だけでも想像できた。

千晴の相手役の姫は男女逆転なので、当然、最初は女の子だったのだろう。
その姫を誰がやるか、女子生徒同士で揉めに揉め、平和的解決が男子も入れての、あみだくじだった。
そしてあろうことか、女子ではなく、男子がその姫を引き当ててしまったのだ。



「当日まで誰が姫かわかんない方が話題になるし、面白いからって秘密なんだって。姫役」

「いや、だったら私に言っちゃダメじゃん」

「先輩はいいの、先輩は。俺、先輩には嘘つかないもん」

「…何言ってんのよ」



わざとらしくおどけたように笑う千晴に、やれやれ、と小さくため息を吐く。
そんな私に千晴は笑みを深めた。



「俺、最優秀賞、絶対取るから。だから練習付き合ってくれない?先輩?」



いつもとは違う黒髪から覗く、綺麗な千晴の瞳がまっすぐと、私を捉える。
ねだるような、けれど、どこか甘さのあるその瞳に私は一瞬だけ違和感を覚えた。

ただ、私にお願いをしているいつもの千晴のはずなのに、一体何が違うのか。

けれど、その違和感はほんの一瞬だけで。



「わかった。委員会の仕事があるからそれが終わってからね」



私はすぐにその違和感を払いのけて、千晴に快く頷いた。
後輩の千晴がやる気になっているのなら、それを手伝うのは先輩として当然のことだ。




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