推しに告白(嘘)されまして。
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千晴に練習場所として連れて来られたのは、主要校舎ではない、第三校舎の中庭の芝生の上だった。
普段あまり使われない校舎の為、ここには私と千晴以外誰もいない。
練習に没頭するにはちょうどいい場所だった。
「白雪王子が狩人から逃げた先には、小さな家がありました」
千晴に渡された〝白雪王子〟の台本を読む私に合わせて、千晴が右へ左へ、時には前へ後ろへと動く。
練習を始めて数分。
台本を一通り読み終え、いざ、練習を始めてわかったことは、この台本では、主役である千晴のやることが非常に少なく、最低限であるということだった。
千晴がやりたくないからそうなっているのではなく、台本がそうするように指示をしているのだ。
おそらく、どうしても千晴で白雪王子がやりたくて、台本の内容をこうしたのだろう。
これなら千晴はただただナレーションに合わせて動いていればいいだけなので、千晴本人に頼みやすい。
『ただ華守くんは立っているだけでいいから!』
と、クラスメイトに言われたに違いない。
そう思って、そのまま千晴に聞いてみると、「何で知ってんの?」と不思議そうにしていた。
「白雪王子は小人たちを見て言いました。「ここはお前たちの家?」と。小人たちは白雪王子にそれぞれが反応を示します。まずは…」
必要最低限の動きを千晴はもう頭の中に入れているようだった。
私の続くナレーションに、台本を見ることなく、台本の通り動けている。
その動きは少々気だるげだが、おそらく、完璧だった。
やればできるじゃん。
千晴の完璧な動きに、千晴の努力が見えて、何だか嬉しくなる。
親心なのだろうか、それとも姉心なのだろうか。